平間のおじさん

川崎に行ったついでに南武線に乗り平間で下車し、久しぶりにかつて暮らしたこの町を歩いてみた。踏切を渡りコンビニの先の細い道を右に折れ、さらに奥に向かって歩いて行ったところにあった、学生寮のような作りのおんぼろのアパートを僕は借りていたのである。

ここを訪れてみたのももう30年ぶり、町はすっかり変わってしまった、それは30年もたったので当たり前のことだ。そしてかつて暮らしたそのアパートのあたりに行ってみたがもちろんそんな建物は残っているはずもなく、どのあたりにあったのかもわからない、ただ道だけは多分変わらなく残っていた。

銭湯もなくなってしまったし、よく利用したホカ弁のお店もない、踏切近くにあった床屋もない。この町ではたしか2年ほど過ごしただけである、過ごした毎日のことなどあまり記憶にはないがこうして歩いた商店街のことやよく通ったラーメン屋さんなど風景は妙に覚えていたりするので、まだ営業されている店などを発見するとうれしくなったりした。

あのころよく商店街を犬を連れて歩いていたおじさんがいた、そのおじさんを「ちょんまげら」といった居酒屋で見かけたことがある。僕は酔っぱらっていたので「こんにちは」と挨拶をするとおじさんも僕のことは顔見知りだったようで「そうかそうか」と気前よくご馳走してくれた。

聞くとおじさんの本職は獣医さん、犬猫病院の先生をしているとのこと。しかし景気はさっぱり、近々閉めようかと思っている、そんな話を聞かされたことをよく覚えている。ペットを飼う習慣は古くからのものであっても、病院にまで連れていく飼い主は多くはなかった時代だった。

それが今やペット産業は一兆円産業ともいわれペットを取り巻く環境はまったく変わってしまった、犬猫病院にしても今ではアニマルクリニックである、医療設備だって人間様並み、定期検診まである時代である。

ちなみに川崎市の動物病院を調べてみるとこんなにたくさんの病院が営業をされている。年を考えればあのおじさんはもう現役ではないだろうが、その後病院はどうされたのだろう。そんなことが妙に気なったりした。